日常生活が『民話』になる村で女将さんの本が出版されました。
この村は、日常生活が「民話」になっちゃうようなところなの利根郡新治村猿ヶ京の持谷靖子さん(五十三)が、このほど11冊目の民話集「はるさんつるさんの昔話〜百七十八歳の青春」(国土社)を出版した。内容は同村在住の原沢はるさん(九十)と関つるさん(八十四)姉妹が語った、村に伝わる滑稽話から人情話、艶話まで百二十話を収録している。中でもはるさん宅を訪れた人達のエピソードを綴った『はるさんの囲炉裏ばた』は持谷さんがお気に入りの“珠玉”の名編だ。「はるさん、つるさんの二人とは、語り手と聞き手の付き合いが十五年以上続いています。今回は、前作と比べて随分、細部の情景描写もはっきりしているので、絵画的な民話としても楽しめると思います」と本の仕上がりに満足そうな表情をのぞかせた。
持谷さんは前橋市出身、慶應義塾大学文学部西洋哲学科を卒業後、昭和三十九年この地に嫁いだ。穏やかな口調で話す持谷さんだが、普段は猿ヶ京の某ホテルの「おかみさん」と三国路紀行文学館の館長を掛け持ちするワーキング・ウーマン。仕事の傍ら、平成二年には通信教育で博物館学芸員と図書館司書の資格を取得し、同館を文部省登録博物館に指定する足掛かりとした。またホテルでは十五年以上も続く「おかみさんの民話語り」が評判で、正に“いいみやげ話”として宿泊客に大変喜ばれているそうだ。忙しい稼業の合間に持谷さんは気持ちをリフレッシュさせるため「お茶」を立てたり、ソプラノリコーダーを手に山へ出掛けたりもする。
「私が山で吹く笛の音がある日、民話の材料になったりしてね、ウフフ」と、民話のできる過程を身近な体験から解き明かしてくれた。
同村の民話の語り部は現在三十六人。持谷さんは一人ひとりの話に優しく耳を傾け、話をテープに録音し、それを原稿におこす。同村特有の方言を、漏らさず忠実に聞き取るには相当の熟練を要する。「皆さん、記憶をたどりながら話するのよね。だから話が飛んだり、重複したりしちゃうのは当然。でもね、自分にとって、この時こそ人情に触れている瞬間なんだって思うの」と目を輝かせた。今後は、新治村の姉妹都市である米国・テキサス州のハンツィビルで、英訳した民話を語り、国境を越えて「友情の輪」を広げることを持谷さんは望んでいる。
※問い合わせは三国路紀行文学館(0278−66−1110)へ。
前もって御連絡下されば、上州民話の語りを致します。